茅原実里が、自身初となる〝演劇〟に挑戦した『EMMA』。ホールから小劇場に舞台を移し、いっそう本格的に行われた再演『EMMA (Re)』へと至るまで、脚本・演出の春陽漁介氏を始めとする劇団5454のメンバーの瞳に、その体当たりの戦いはどのように映っていたのだろう? およそ一ヶ月半ぶりに会した四人が語り合う、あの懐かしく、愛しい「黄泉の国」の思い出。そして、確かな絆を育んだ座組が見つめる、さらなる未来とは――?



左から春陽漁介(脚本・演出/加藤武 役)、榊木並(エクレア 役)、茅原実里(ショコラ・佐々木絵麻 役)、板橋廉平(ジェラート 役)


――まずは、茅原さんが初めて演劇に挑戦された『EMMA』の再演に至った経緯を伺わせてください。


茅原

初演のときは「演劇」とはいえ、会場も大きなホールでしたし、お客さまを巻き込むかたちで台本を書いていただいたりもして、私の中では「イベント」という意識がまだ強かったんです。それで、公演が終わったとき、本来、あるべき演劇のスタイルでやってみたいなという思いが芽生えてしまい……再演をお願いさせていただきました。




春陽
そんな思いからだったんですね。僕は「もうちょっと演劇にしたい」としか伺っていなかったので「えっ、本当に良いんですか?」という感じだったんですよ(笑)。

茅原
はい、実は(笑)。

春陽
僕としては、再演させていただくのであれば、ただの焼き直しではなく、さらに物語をふくらませられるものではないと意味がないと思いました。実里さん演じるショコラ/絵麻のキャラクターを掘り下げることをマストに、みんなとネタの一つ一つを話し合って、この「黄泉の国」に流れるテーマに、もう一度向き合わせていただきましたね。

板橋
初演のとき、僕らの中で「実里さんのすてきなところを出すポイントが、もっとあっても良かったね」という話にもなっていたんですよ。「あの追い込まれたときの、ちょっと静かな感じが魅力だよね」とか。

そうそう。話していました。


茅原
それって、どういうときのことですか!?

板橋
僕らが「この作品のテーマはこうだから……」って話し始めると、途端に黙っちゃう。

茅原
きっと何か考えているときなんだろうとは思うのですが、どうだろう(笑)。

春陽
考えていますよ。考えすぎた結果、存在を消して「ポツン」となってしまう(笑)。そういう実里さんが普段生きていらっしゃる中で垣間見える瞬間を舞台上にそのまま乗せるのが一番面白くなるんだということが初演を通してわかったので、そこは再演で一番のポイントにもなりました。暗く押し黙っちゃうとき、また逆に思いきり明るくはしゃぐとき。その振り幅をかなり意識して改稿しています。


――茅原さんも、初演を通して共演者のみなさんと打ち解けたからこそ、振り幅の大きな芝居が演じられたのでは?

茅原
そうかもしれません。私は本当に人見知りというか、あまり人付き合いが上手くないので、初演のお稽古が始まったとき「こんなに近い距離でやっていくんだな」って、正直、戸惑ったんです。

ええっ! 気づかず、ぐいぐい迫ってしまいました……。

茅原
いえいえ! それでこそ作れた舞台だと思うので、ありがたかったですよ。ただ、精神的、物理的にも近いところでディスカッションしていかないといけないから、そのために、まず自分自身が心を開かなければ始まらないんだっていう葛藤は、すごくありました。だから、ポツンともしていたのかなって思います。

春陽
たとえ実里さんがポツンとされていても、演劇と向き合う中での大切な時間だから、僕らは過剰に意識しないよう気をつけていました。

板橋
そして、帰りの電車で「あの言い方はちょっと良くなかったかなあ」「踏み込みすぎたかもね」と反省する。


茅原
そういうことではなかったんですよ、本当に!

春陽
わかっています、わかっています。実里さんのモヤっとした気持ちって伝わりやすいんだけど、僕は、それもリアクションの一つだと思っているんですね。

顔に出やすいですよね。

春陽
劇中でも、魂たちのヒアリングを行うのがショコラの仕事だとしましたが、それは「聞き上手」であることが、実里さんの一番の魅力だと思ったからです。ただ何か話を聞いているときの、ちょっとした表情の変化が面白い。具体的には、恋バナで弾けたり、女性同士だからこその厳しい指摘を受けてヘコんでしまったりと、エクレアとのシーンを加筆しているのですが、その二人の関係が広がったのは、実里さんと木並さんにつながる部分があるのを見ていたからです。ノリというか、空気感が似ているんですよね。

恐れ多いですよ。

春陽
まあ、僕たちよりは木並さんに心を開かれている瞬間が多く見えたからね。

茅原
そうだったんですね。でも、本当に楽しかったよね。

楽しかったですね、女子会のシーン。


春陽
あそこ、僕は演出していないんですよ。二人に「ここは、はしゃぎたいです」と提案しただけで、次の日には「あー、ちょっとごめんなさい。うるさいです」って抑えてもらうレベルまで行っていた(笑)。

茅原
優助役のアツシオさんが、アドバイスしてくださったんですよね。

私たちが作ったものを客観的に見て、整理してくださいました。

春陽
声の世界では、音響監督さんがイメージを持ってディレクションされると思うのですが、演劇は、みんなで作る部分が大きいんです。本番中、段取りにないセリフを言ってみることも当然ありますし。再演は、そういうアドリブ的なものが初演よりはるかに多くなっていました。

茅原
再演で新登場した本田さんのキャラクターも大きかったですね。

春陽
そうですね。僕も自分の芝居を作るのに精一杯で、みんなにお任せするところがあるのですが、まさか実里さんにも同じような感覚で臨んでもらえるとは思っていませんでした。ふと見ると「あー、ここ疑問に思っているんだろうなー」っていうのがわかるんです。それでも何とか頑張って自分で作ろうとしているから、あんまり早くこちらからアドバイスしちゃうのもつまらないだろうな、と。試行錯誤する姿、面白かったです。

茅原
もー、どうして私の観察日記をつけてくださらなかったんですか(笑)。


一同
(笑)。


――再演に臨まれる中で、茅原さんが最も大切にされたことは?

茅原
とにかく「会話のキャッチボール」をすることに重きを置きました。初演のときは、ストーリーの流れに則って、うまくやろうというか、器用にやろうとしたところがあったんじゃないかって思うんですね。でも今回は、お芝居に集中できる環境を作っていただいたわけですし、ちゃんと相手の言葉を受けること、そして自分の気持ちが動いたらしゃべることを心掛けようって。お稽古以外で友だちに付き合ってもらうこともあったのですが、そうしたときに気づくのは、掛け合う相手がすごく大事になってくるんだっていうことでした。

板橋
同じ言葉が飛んでくるのでも、心が違いますからね。

茅原
私はすごくペースがゆったりしていて、人よりも反応が鈍いんです。そのくせ、ちゃんと受け止めて返そうとするから、前回よりさらに時間が掛かったし……とても疲れました(笑)。それでも全部に心が動いたのかというと、そうではないのが心残りでした。全部に動かせるようになりたいです。

板橋
僕らも一字一句に心が動いているのかというと、決してそうではないですよ。

茅原
そうなんでしょうか? みなさんは舞台上で感情をしっかりコントロールされていますが、私はそこまでできなかったなって。

春陽
むしろ、それは実里さんの良さじゃないかなあ。本当に心が動かなかったらセリフが乗らないっていうのは、役者として〝良いワガママ〟だと思うんですね。「ここは、こういう感情だから、こう言う」という作り方もあるけど、そうすると、80点を取れても、それ以上の点は出せないんですよ。実里さんの場合、もしかしたら30点のときがあるかもしれない。でも、100点以上のものが出てしまうときがあるんです。日々、心の在り方は変わって当たり前ですから。それこそが、演劇の面白さでもあると僕は思いますね。


――同じ舞台を何度観ても楽しめるのは、そういうところにも理由があるのでしょうか。

春陽
そういう意味では、再演で初めての通し稽古をしたとき、ジェラートとの別れのシーンで実里さんの心がその日一番動いていたのを見て、すごくドキッとしたのを覚えています。本来、どこを一番に高めなくてはいけないかと問われたら、優助を相手にする場面であるはずなのに。しかも、その日以上に、その場所で高まっているのを見ていません。何回も見ているからわかることですが、面白かったですね。



茅原
どうしてそうなるのか、自分でわかれば良いなあって思うんですけどねえ……。